はじめに
「遺言書はちゃんと残しておきたいけれど、公正証書遺言だと費用が高そう…」
「自分で書いた遺言書を法務局に預けられる制度があるらしいけど、それで十分なんじゃないか?」
2020年から始まった遺言書保管制度を使えば、たった3,900円で法務局に遺言書を預けられます。紛失や改ざんの心配もなく、家庭裁判所の検認も不要——一見すると公正証書遺言より手軽で安く、いいことづくめに見えます。
ただし、この制度には注意しておきたいポイントがあります。この記事では、保管制度の仕組み・費用・手続きの流れ・知っておきたい注意点・公正証書遺言との違いまでわかりやすく解説します。
STEP 1遺言書保管制度の概要
まずは制度の中身をざっと見ていきましょう。「自分で書いた遺言書を、法務局が預かってくれる」——それがこの制度です。2020年7月から始まりました。
📋 基本情報
費用3,900円(申請1件あたり)
申請先住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局
申請者本人のみ(代理人による申請は不可)
予約事前予約が必要(法務局のサイトまたは電話)
自宅保管と法務局保管を比べると、こんな違いがあります。
🏠 自宅で保管した場合
・紛失・火災で消えてしまうリスク
・誰かに改ざん・隠されるリスク
・そもそも見つけてもらえない可能性
・亡くなった後、家庭裁判所での確認手続き(検認)が必要
🏛 法務局に預けた場合
・紛失・改ざんの心配なし
・家庭裁判所での検認が不要
・相続人への通知制度あり
・費用はわずか3,900円
STEP 2手続きの流れ
「実際にどうやって預けるの?」という疑問にお答えします。手続きは6つのステップで進みます。
✍️ STEP 1 遺言書を作成する
全文を自分の手で書く(パソコン・代筆は不可)。日付・氏名を記入し、印鑑を押します。
📝 手書き
📅 日付・氏名・押印
📄 A4・余白(上5/下10/左20/右5mm)
🖊 ボールペン
🏛 STEP 2 申請先の法務局を決める
以下の3つの中から1つ選びます。
🏠
住所地を管轄
📋
本籍地を管轄
🏘
所有不動産の所在地
📋 STEP 3 保管申請書と必要書類を準備する
法務省のサイトから保管申請書をダウンロード(窓口でも入手可)。あわせて以下を準備します。
📄 住民票の写し
本籍地記載・3か月以内
🪪 本人確認書類
運転免許証・マイナンバーカードなど
💴 収入印紙
手数料3,900円分
📞 STEP 4 法務局に予約する
事前予約が必須です。次の3つから選べます。
🌐
ウェブ予約
24時間OK
📞
電話予約
🏛
窓口予約
🚶 STEP 5 予約日に本人が法務局へ行って申請する
予約日に本人が来庁。窓口で書類を提出し、本人確認・形式チェックを受けます。
⚠ 代理人・郵送は不可
⏱ 所要時間 30分〜1時間
✅ 形式チェックあり
🎉 STEP 6 保管証を受け取る
手続き完了。保管番号と保管先の法務局名が書かれた「保管証」が交付されます。
💡 家族に「法務局に遺言書を預けてある」「保管番号は○○」と伝えておくと、いざというときスムーズです
STEP 3保管後に使える3つの仕組み
「預けたあと、家族はどうやって遺言書の存在を知るの?」という疑問もありますよね。預けたあとに使える仕組みが3つ用意されています。
① 死亡時に指定した人へ通知(指定者通知)
あらかじめ「死亡したら通知してほしい人」を最大3名まで指定しておけば(任意の手続きです)、亡くなって市区町村に死亡届が出されると、法務局からその人に「遺言書が保管されています」と通知が届く仕組みです。家族以外(友人・知人など)も指定できます。指定しなかった場合は、この通知は行われません。
② 他の相続人にも通知される(関係遺言書保管通知)
相続人の誰か1人が法務局で遺言書の内容を確認すると、他の相続人や、遺言書に書かれた受遺者・遺言執行者にも「遺言書が保管されています」と通知が届きます。1人だけが内容を見て他の人に黙っている、ということができない仕組みです。
③ 遺言書の有無を確認できる
「そもそも遺言書が保管されているかどうか」を確認できる仕組みです。生前は本人だけが、亡くなった後は相続人なども確認できます。
STEP 4保管制度の注意点|「保管された=有効」ではない
ここがこの記事で一番お伝えしたいポイントです。「法務局に預けたんだから大丈夫だろう」と思いがちですが、実は法務局がチェックしてくれることには限界があるんです。
⚠ 法務局がチェックするのは「形式」だけ
法務局は「見た目」の確認(全文が自分で書かれているか・日付・氏名・押印があるか・用紙サイズや余白が規定通りか)は行ってくれます。ただし、遺言の内容が法的に有効か、財産分配が適切か、遺留分を侵害していないかといった「内容」については確認しません。
法務省も「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明示しています。
例えばこんなケースがあります。
財産の書き方があいまい
「自宅を長男に」だけでは、どの不動産か特定できず、銀行や法務局での手続きが進まないことがあります。財産の特定は内容にあたるため、法務局では確認されません
遺留分を侵害している
特定の相続人に偏った内容でも法務局はそのまま保管します。あとから他の相続人から遺留分の請求を受け、家族間でトラブルになることがあります
遺言能力が疑われる状態
認知症などで判断能力が低下した状態で書いた遺言書は、あとから無効を主張されることがあります。法務局ではこの点も確認されません
「3,900円で預けたから安心」と思っていたのに、相続が始まってから内容のことでトラブルになる——こうしたことを防ぐためにも、預ける前に内容を専門家に確認してもらうことをおすすめします。
STEP 5公正証書遺言との比較
「で、結局どっちがいいの?」という大事な疑問にお答えします。両者の特徴を比較表でまとめました。
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費用
3,900円
数万円〜十数万円
財産の額により変動
内容のチェック
なし
無効リスクが残る
あり
公証人が法的に有効な形に整える
紛失・改ざんリスク
なし(法務局保管)
なし(公証役場保管)
📋 結論:費用より安全性を優先するなら公正証書遺言
保管制度は3,900円と費用面では魅力的ですが、内容のチェックがないため無効になる可能性が残ります。一方、公正証書遺言は費用がかかる分、公証人が法的に有効な形に整えてくれる安心感があり、家族への確実な備えになります。特に財産が多い場合・複雑な事情がある場合・確実に有効な遺言書を残したい方には、公正証書遺言をおすすめします。
遺言書は、残された家族への最後のメッセージです。せっかく書いた遺言書が「使えない」と言われてしまうのは、書いたご本人にとっても、それを受け取る家族にとっても、とても残念なことです。
保管制度は確かに手軽で費用も抑えられる便利な制度ですが、内容のチェックがない以上、無効になる可能性は残ります。せっかくなら「ちゃんと家族に届く形」で残しておきたいものです。
当事務所では、公証人が法的に有効な形に整えてくれる公正証書遺言の作成サポートを行っています。費用はかかりますが、無効になるリスクを最大限に減らし、家族への確実な備えになります。「どちらにすべきか迷っている」という方も、ぜひ一度ご相談ください。
当事務所でできること
こんな状況の方からご相談いただいています。
・費用を抑えたいので自筆+保管制度を考えているが、無効にならないか心配
・公正証書遺言と保管制度のどちらが自分に合っているか相談したい
・すでに書いた遺言書の内容や形式を確認してほしい
当事務所では、無効になるリスクを最大限に減らせる公正証書遺言の作成サポートを行っています。遺言内容の整理から公証役場での手続きまでトータルでお手伝いします。「公正証書か保管制度か迷っている」段階のご相談も大歓迎です。
まとめ
費用
3,900円
法務局で原本保管・検認不要・通知制度あり
本人申請のみ・事前予約必要。2020年7月から始まった制度
注意
ポイント
書式は確認されるが、内容の有効性まではチェックされない
「保管された=有効」とは限らない。預ける前に内容の確認を
公正証書
との比較
費用は安いが、安全性は公正証書の方が高い
費用だけで決めず、内容を専門家に確認してもらうとより安心
【免責事項】この記事は情報提供を目的としており、法律的なアドバイスではありません。状況によって手続きや結果が異なりますので、具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。