はじめに
「公正証書遺言を作ろうとしたら、年齢が高齢なので認知症の検査を受けてきてほしいと言われた。どんな検査が必要なの?」
「MMSEと長谷川式簡易スケール検査という検査方法があるって聞いたけど、どう違うの?」
——そういった質問も少なくはありません。
この記事では、MMSEと長谷川式(HDS-R)の違いを中心に、遺言書作成の場面でよく使われる認知機能の簡易検査について整理します。
検査の内容を事前に知っておきたい方、遺言書と認知症検査の関係を理解したい方の参考になれば幸いです。
2026.04.11
はじめに
公正証書遺言は、公証人(法務大臣に任命された法律の専門職)が作成するため形式不備による無効リスクがほぼなく、実務でも最も利用されている遺言の形式です。
この記事では、公正証書遺言が選ばれる理由・三重県内の公証役...
📋 この記事でわかること
・なぜ公正証書遺言で認知症検査が必要なのか
・HDS-R(長谷川式)の内容と特徴
・MMSEの内容と特徴
・HDS-RとMMSEの具体的な違い(比較一覧)
・補足:MoCA・Mini-Cogとは
・検査の点数が遺言能力の判断にどう関わるか
なぜ、遺言書を作るのに認知症の検査が必要なのか
遺言書が有効であるためには、「遺言能力」が必要です。一言でいうと、「誰に何を渡すか、それによってどうなるかを、ちゃんと理解したうえで書いたか」ということです。
認知症が進んで判断能力が大きく落ちた状態で作った遺言書は、公正証書であっても後から無効になる可能性があります。
公証人も面談でご本人の様子を確認しますが、それだけでは「後から争われたときの証拠として弱い」こともあります。だから医療機関での検査結果や診断書を求めるのです。客観的な記録があることで、将来、遺言書の有効性が問われたときの有力な証拠の一つになります。
「なんで疑われなきゃいけないの」と感じる方もいます。でも検査は、あなたの意思をしっかり証明するための準備です。そう受け取ってもらえると、少し気持ちが楽になるかもしれません。
① HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
1974年に日本の精神科医・長谷川和夫氏が開発し、1991年に改訂された検査です。日本の医療・介護現場に最も普及しており、遺言書の場面でも最もよく登場します。「長谷川式をやってきてください」と言われたら、この検査のことです。
問題はすべて口頭です。紙に何か書いたり図を描いたりする必要がありません。手や目に不安がある方でも受けやすい点が特徴です。
内容
こんな問題が出ます(9問・30点満点)
1.年齢を答える
2.今日の日付(年・月・日・曜日)を答える
3.今いる場所を答える
4.3つの言葉をすぐに繰り返す
5.100から7を引く計算を2回続ける(93・86)
6.数字を逆の順番で言う
7.さっきの3つの言葉を思い出す
8.見せてもらった5つの物を隠した後で思い出す
9.野菜の名前をできるだけたくさん言う
ポイント
30点満点・20点以下で認知症の疑い(感度93%・特異度86%)
所要時間:6〜10分 / 筆記なし・すべて口頭で完結
特に記憶力(遅延再生)を重点的に確認する。主に日本で使用。
② MMSE(ミニメンタルステート検査)
1975年にアメリカで開発された、世界標準の認知機能スクリーニング検査です。「Mini-Mental State Examination」の略で、国際的な研究や診断でも広く使われています。日本でも医療・介護現場で長谷川式と並んで定着しています。
長谷川式と大きく違うのは、紙に図形を書き写す問題があること。記憶力だけでなく、言語の理解・空間をとらえる力・指示に従って動く力なども確認できる、多面的な検査です。
内容
こんな問題が出ます(11問・30点満点)
1.今日の日付(年・月・日・曜日・季節)を答える
2.今いる場所(都市・病院名など)を答える
3.3つの言葉をすぐに繰り返す
4.100から7を引く計算を繰り返す
5.さっきの3つの言葉を思い出す
6.目の前の物の名前を言う
7.短い文をそのまま繰り返す
8.3段階の指示に従って動作する
9.紙に書かれた文を読んでその通りにする
10.短い文を自分で書く
11.図形をそのまま書き写す
ポイント
30点満点・23点以下で認知症の疑い
所要時間:約10分 / 筆記あり(図形の模写など)
記憶・言語・空間認知など多面的に評価できる世界標準の検査。手が不自由で書けない場合は一部省略も可能。
HDS-R(長谷川式)とMMSEの違いを比べると
2つの検査は似ているようで、測り方と得意なことが違います。
書く問題
なし(口頭のみ)
あり(図形の模写など)
重点的に測る力
記憶力(遅延再生を重視)
記憶・言語・空間認知など多面的
カットオフ
20点以下で認知症の疑い
23点以下で認知症の疑い
手・目に不安がある場合
受けやすい
書く問題を一部省略可
使われる場面
主に日本の医療・介護・遺言の場面
世界標準。日本でも広く使用
どちらを受けるかは医師が決めます。ご自身で選ぶ必要はありません。受診の際に「遺言書を作りたいので認知機能を確認したい」とひとこと伝えれば、状況に合った検査を実施してくれます。日本ではHDS-Rの方が多く使われる傾向がありますが、医療機関によって異なります。
補足:MoCA・Mini-Cogについて
HDS-R・MMSE以外にも、場面によって使われる検査があります。
内容
MoCA(モントリオール認知評価)
カナダで開発。軽度認知障害(MCI)の早期発見に特化した検査です。HDS-RやMMSEで「正常」と出ても、MoCAではひっかかることがあります。30点満点・25点以下でMCI疑い。所要時間約10分。
Mini-Cog(ミニコグ)
3つの言葉を覚えて後で思い出す+時計を描く、たった2問で約2分で完了する入口の検査です。5点満点・2点以下で認知症の疑い。他の検査の前に手早く確認したいときに使われます。
検査の点数は、遺言書を守る「証拠」になる
検査の点数は、遺言書の有効性が後から争われたときに「あのとき、ちゃんと判断できていた」ことを裏付ける材料の一つになります。ただ、点数だけですべてが決まるわけではありません。
内容
遺言能力の有無を判断するとき、裁判所が見るもの
①精神上の障害の有無・内容・程度(診断書・カルテ・認知機能検査のスコアを含む)
②遺言の内容(合理性と複雑さ)
③遺言を作成するに至った動機・経緯
④遺言作成前後の言動・状況(医療記録・介護記録・看護記録なども含む)
⑤遺言書作成時の様子(公証人・証人の記録)
注意
点数だけでは証明できない
点数はあくまで判断材料の一つです。正常範囲内でも遺言能力が否定されるケースがあるように、点数だけで結論は出ません。だからこそ、点数だけに頼らず医師の診断書もセットで取っておくことが重要です。
一番いいのは:遺言書を作る直前か当日に、かかりつけ医を受診し、判断能力(意思能力)の状態についての診断書を作成してもらうことです。遺言書専用の書式はなく記載内容は医師によって異なりますが、認知機能検査のスコアと合わせて手元に残しておくことで、後の有力な証拠になります。
なお、「遺言能力があるかどうか」を最終的に判断するのは裁判所です。医師の診断書はその重要な判断材料になりますが、法的結論を決めるものではありません。何を書いてもらうべきかは、専門家(行政書士・司法書士・弁護士)と相談しながら進めるのが確実です。
「まだ歩ける道が、夕暮れのなかに続いている。」
——検査を前に、そんなことをふと思う方もいるかもしれません。
「年齢だから検査を」と言われると、
戸惑いや複雑な気持ちになることもあると思います。
でも検査は、あなたの意思を将来に残すための、静かな準備です。
まだ動ける今のうちに。
どの病院に行けばいいか、診断書の段取りはどうするか——一緒に整えましょう。
行政書士髙橋 大輔
三重県・鈴鹿市での遺言相談について
「いつ病院に行けばいいか」「診断書はどう頼むか」「公証役場との段取りはどうなるか」——こういった細かいことも含めて、当事務所でご相談をお受けしています。
✓検査の種類・受け方の流れのご説明
✓公証役場への段取り・必要書類の整理
✓公正証書遺言書の文案作成・公証役場との調整
✓「何から始めればいいかわからない」という段階からのご相談(初回無料・対面・電話・LINE・オンライン)
よくあるご質問
QMMSEと長谷川式、どちらを受けることが多いですか?
▼
A
日本では長谷川式(HDS-R)の方が多く使われる傾向があります。口頭だけで完結するため実施しやすく、日本の医療・介護現場に広く普及しているからです。ただし医療機関によってはMMSEを使うところもあります。どちらを受けるかはご自身で選ぶものではなく、担当の先生が決めます。
Q診断書は必ず取得しなければなりませんか?
▼
A
義務ではありませんが、取得しておくことをお勧めします。将来、遺言書の有効性が争いになったとき、判断能力(意思能力)の状態についての医師の診断書は有力な証拠の一つになります。遺言書専用の書式はなく記載内容は医師によって異なりますが、認知機能検査のスコアと合わせて残しておくことが有効です。何をどう書いてもらうかは、専門家と相談しながら進めるのが確実です。遺言書を作る日に近いほど、証拠としての力が高まります。
Q検査はどの病院で受ければいいですか?
▼
A
かかりつけ医がいれば、まずそこに相談するのがスムーズです。かかりつけ医がいない場合や、認知機能の評価を専門的に行いたい場合は、精神科・神経内科・物忘れ外来が適しています。受診の際に「公正証書遺言の作成のために認知機能を確認したい」とひとこと伝えると、目的に合った対応をしてもらいやすくなります。
Q家族が付き添っても大丈夫ですか?
▼
A
付き添い自体は問題ありません。ただし、検査は本人が単独で答える必要があります。家族が答えのヒントを伝えてしまうと正確な検査ができなくなるため、検査中は口を出さないよう注意が必要です。受付や移動のサポートにとどめておくのが基本です。
Q検査結果はどのくらい保管しておけばいいですか?
▼
A
遺言書の有効性が争われるのは、遺言者が亡くなった後です。そのため、検査結果や診断書は遺言書と一緒に保管し、相続が発生するまで手元に残しておくことが重要です。保管期間に定めはありませんが、遺言書が効力を持つ間(亡くなるまで)は手放さないのが基本です。
Q三重県・鈴鹿市でこういった遺言の相談はできますか?
▼
A
もちろんです。三重県鈴鹿市の当事務所(行政書士髙橋大輔事務所)で承っています。「いつ病院に行けばいいか」「診断書はどう頼むか」「公証役場との段取りは」——そういった細かいことも含めてご相談いただけます。対面・電話・LINE・オンラインで対応しており、初回相談は無料です。
まとめ
HDS-R
長谷川式
日本生まれ・口頭のみ・記憶力重視。30点満点・20点以下で認知症疑い。遺言書の場面で最もよく使われる傾向がある
MMSE
世界標準・書く問題あり・多面的評価。30点満点・23点以下で認知症疑い。記憶だけでなく言語・空間認知なども確認できる
2つの
違い
最大の違いは「書く問題の有無」と「評価の重点」。どちらを受けるかは医師が決める。ご自身で選ぶ必要はない
補足
検査
MoCA(軽度の変化を早期発見・25点以下でMCI疑い)/Mini-Cog(約2分・入口のスクリーニング)
対策
点数だけでなく「医師の診断書」もセットで用意するのが実務上の有力な対策。遺言書を作る日に近いほど効果的
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を提供するものではありません。個別の事情により手続きや結果が異なる場合がありますので、具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。