はじめに
「親が亡くなって相続税の通知が来たけれど、財産のほとんどが実家の土地で現金がほとんどない——10か月以内に払えるか分からない」
こうした悩みは決して珍しくありません。日本の相続では不動産が財産の大きな割合を占めるケースが多く、現金化できずに納税資金が足りなくなる事例は珍しくありません。
この記事では、相続税が払えない場合の5つの対処法・不動産売却の注意点・最も有効な事前対策を、できるだけわかりやすく整理します。
💡 この記事の結論
払えないこと自体は問題ではありません。放置することが、最も大きな問題です。
対処法は5つ:
① 不動産・株式の売却 ② 延納(分割払い) ③ 物納(不動産で納付)
④ 金融機関からの借入 ⑤ 生命保険による事前準備
納付期限(10か月以内)までに動き出せば、ほとんどのケースは解決できます。
STEP 1まず知っておきたい基本ルール
相続税には明確な期限があります。この期限と、払えない原因の典型パターンを理解しておくことが、対処の第一歩です。
納付期限
亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納付の両方を済ませる必要があります。
納付方法
原則として現金で一括納付。被相続人の住所地を管轄する税務署で、または金融機関・インターネットで納付します。
払える財産
「自分の財布から」ではなく、相続した預貯金を充てるのが基本です。問題になるのは遺産の大半が不動産など、現金化しにくい財産の場合です。
払えない原因の典型パターン
●遺産の大半が不動産で、現金がほとんどない
●遺産分割協議がまとまらず、預金口座が凍結されたまま
●非上場株式・農地など、すぐに売却できない財産が中心
●相続税額が想定より高く、手持ちの現金で足りない
STEP 2払えないときの5つの対処法
現金で払えない場合に取り得る手段は、大きく5つあります。基本は「①売却 → ②延納 → ③物納」の順に検討します。
① 不動産・株式を売却して現金化▼
相続した不動産や上場株式を売却して、納税資金を作る方法です。最も一般的な対処法ですが、注意点があります。
注意:売却益(譲渡所得)には所得税・住民税がかかります。また、不動産は売却に数か月かかるため、10か月以内の納付に間に合うよう早めの着手が必要です。
▶ 詳細はSTEP3で解説します。
② 延納(分割払い)▼
相続税を最長20年の分割払いにできる制度です。申告期限までに申請する必要があります。
・要件:相続税額10万円超・現金一括が困難・担保の提供
・期間:原則5〜20年(不動産等の割合で変わる)
・延納期間中は利子税がかかります
③ 物納(不動産などで納付)▼
延納でも金銭で納められない場合に、相続した不動産・上場株式などで納める制度です。
・優先順位:1位は不動産・上場株式・社債等
・抵当権付きの不動産など「管理処分不適格財産」は物納不可
・審査があり、必ず認められるわけではない
④ 金融機関からの借入▼
不動産の売却が納付期限に間に合わない場合に、相続した不動産を担保にして金融機関から借り入れる方法です(つなぎ融資)。
・金利と延納の利子税を比較して判断
・担保・保証人が必要・審査が厳しくなる場合あり
⑤ 生命保険による事前準備▼
相続発生前にできる準備として広く活用される方法です。死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠があり、相続発生後すぐに納税資金を確保できます。
▶ 詳細はSTEP4で解説します。
STEP 3不動産を売却する場合の注意点
最も使われる対処法ですが、いくつか押さえておきたいポイントがあります。特に税金の特例は期限があるため、早めの判断が必要です。
活用したい2つの税制特例
取得費加算の特例(売却益にかかる税金を減らせる)▼
相続税の申告期限の翌日以後3年以内(相続開始から約3年10か月以内)に売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費」に加算して譲渡所得を計算できる制度です。売却益にかかる所得税・住民税を減らせます。
被相続人居住用財産の3,000万円特別控除(空き家特例)▼
亡くなった方が一人で住んでいた家を相続して売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。相続開始から3年を経過する年の12月31日までの売却が要件で、ほかにも細かい条件があります。
不動産売却で押さえるべき4つのポイント
①相続登記が先 登記名義人でないと売却できません。司法書士に依頼するのが一般的です。
②遺産分割協議が完了していること 共有名義のままだと、全員の同意が必要で売却が難航します。
③売却まで数か月かかる 査定・買主探し・契約・決済で3〜6か月。10か月の納付期限から逆算した早めの着手を。
④間に合わない場合は延納で時間を稼ぐ 売却に時間がかかるなら、いったん延納を申請する選択肢も。
STEP 4事前対策として有効な「生命保険の活用」
相続発生後にできることには限界があります。事前にできる最も有効な対策が、生命保険の活用です。
💡 生命保険が納税資金に向いている3つの理由
①非課税枠がある:「500万円×法定相続人数」までは相続税がかかりません。
②比較的早く受け取れる:必要書類が揃えば、請求後数日〜1週間程度で支払われることが多く、納税資金として確保しやすい。
③遺産分割の対象外:受取人を指定した保険金は、原則として遺産分割協議の対象になりません。
📋 活用例(一般的なケース)
法定相続人が3人で、相続税が1,500万円見込まれる場合——「500万円×3人=1,500万円」までの保険金は非課税。相続税の負担なく、納税資金として活用できる可能性があります。具体的な保険商品の選び方や加入の判断は、保険会社や税理士にご相談ください。
STEP 5放置すると何が起きる?
「払えないからどうしようもない」と放置することが、最も大きなリスクです。期限を過ぎると、段階的に状況が悪化していきます。
①遅延税
納付期限の翌日から延滞税が日々加算されます。期間が長くなるほど負担が増えます。
②督促
税務署から督促状が届きます。督促状の発送から10日を経過しても納付がない場合、滞納処分の対象となります。
③差押え
最終的には財産の差押えが行われ、強制的に換金されて相続税に充てられます。相続不動産だけでなく、相続人自身の預貯金・給与なども対象になります。
④連帯
納付
相続税には「連帯納付義務」があります。一人が払えないと、他の相続人の財産にまで及ぶ可能性があります。
⚠ 無申告のまま放置すると特例が使えなくなる
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を活用するには、原則として期限内の申告が必要です。無申告のまま放置すると、こうした特例による税負担の軽減が受けられず、本来より大きな税金を負担することになりかねません。
よくあるご質問
Q遺産分割がまとまっていない場合はどうなりますか?▼
A
遺産分割が決まらなくても、期限までに申告と納税は必要です。仮に法定相続分で遺産分割したものとして相続税を申告し、仮の税額を納付します。後日、実際の分割が決まったら修正申告または更正の請求を行います。ただし、未分割の状態では小規模宅地等の特例などは使えない点に注意が必要です。
Q相続放棄すれば相続税は払わなくていいですか?▼
A
相続放棄をすれば相続税の納付義務はなくなります。ただし、相続放棄は相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所での手続きが必要で、プラスの財産もすべて放棄することになります。借金などマイナスの財産が多いケース以外では、慎重な判断が必要です。
Q不動産を売却するのと物納するのは、どちらが有利ですか?▼
A
一概には言えませんが、一般的には売却の方が高く評価されるケースが多いとされます。物納は相続税評価額(路線価など)で納めるため、市場価格より低くなることが多いためです。ただし、売却益には譲渡所得税がかかります。個別の判断は税理士へご相談ください。
Q三重県・鈴鹿市で相談できますか?▼
A
当事務所(行政書士髙橋大輔事務所・三重県鈴鹿市)にて承っています。遺産分割協議書の作成・相続手続き全体の整理は当事務所が担当し、相続税の申告・延納・物納の判断は提携税理士、不動産売却は提携司法書士・不動産会社をご紹介します。対面・電話・LINE・オンライン対応可。初回相談は無料です。
霧に包まれた家のように、相続が始まったばかりのときは、
何から手をつければいいのか見通しが立たないものです。
「相続税が払えないかもしれない」
——そう気づいたとき、不安で動けなくなってしまう方は少なくありません。
でも、払えないこと自体は珍しくありませんし、対処法もあります。
本当に問題になるのは、不安のまま放置してしまうことです。
10か月という期限から逆算して、何をどの順番で進めるか
——その整理だけでも、不安はずいぶん軽くなります。
具体的な税額計算や延納・物納の申請は税理士の業務になりますが、その前段階
——「全体像を整理する」「誰に何を依頼するか決める」段階から、私がお手伝いできます。
行政書士髙橋 大輔
当事務所のサポート内容
相続が始まったばかりで全体像が見えない方はご相談ください。
・遺産の整理・財産目録の作成からサポートしてほしい
・誰に何を相談すればいいか分からない
・10か月の期限から逆算したスケジュールを整理したい
行政書士業務(遺産分割協議書・財産目録・戸籍収集)に加えて、相続税は税理士、相続登記・売却は司法書士・不動産会社をご紹介します。
🏛 行政書士(当事務所)
財産目録の作成
遺産分割協議書作成
戸籍収集・相続人確定
📊 税理士(ご紹介)
相続税申告
延納・物納の申請
税務上の個別判断
⚖ 司法書士(ご紹介)
相続登記
不動産売却の手続き
まとめ
期限
納付期限は亡くなってから10か月以内・現金一括が原則
放置せず、期限内に動き出すことが最も重要
対処法
①売却 ②延納 ③物納 ④借入 ⑤事前対策(生命保険)
基本は「売却 → 延納 → 物納」の順に検討
不動産
取得費加算特例・3,000万円特別控除を活用
どちらも期限あり・相続登記が先・売却まで数か月かかる
事前
対策
生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)の活用
遺産分割の対象外・すぐ受け取れるため納税資金に向く
放置
延滞税・督促・差押え・連帯納付義務のリスク
無申告だと小規模宅地等の特例も使えなくなる
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言・税務助言を提供するものではありません。相続税の申告・延納・物納の判断は税理士の業務です。具体的なご相談は税理士にお問い合わせください。記載内容は2026年6月時点の情報に基づきます。