はじめに

「家族信託」という言葉を最近よく耳にするけれど、いったい何ができる仕組みなのか、遺言書とどう違うのか、よくわからない——そう感じている方も多いのではないでしょうか。

実は、家族信託と遺言書は役割がまったく違う仕組みです。「どちらか一方」ではなく、ご家庭の状況に合わせて使い分けたり、組み合わせたりするものです。

この記事では、家族信託の基礎から、認知症対策としての位置づけ、遺言書との違い、そして実務上の使い分けまで、三重県鈴鹿市の行政書士がわかりやすく解説します。

そもそも家族信託って何?

STEP 1そもそも家族信託って何?

家族信託をひとことで言うと、「ご自身の財産の管理を、信頼できる家族に任せておく契約」です。難しく聞こえるかもしれませんが、身近な例で考えるとイメージしやすくなります。

💡 たとえば、こんなイメージ

お父さまが、ご自身名義のアパートをお持ちだとします。元気なうちは家賃の管理も修繕の判断もご自分でできますが、もし認知症になってしまったら? アパートの管理は誰がするのでしょうか。

家族信託では、お父さまが元気なうちに「長男に管理を任せる」という契約を結んでおきます。すると、たとえお父さまが将来認知症になっても、長男が代わりにアパートを管理・修繕・売却することができるようになります。

家族信託には、登場人物が3人います。

👤
① 委託者
財産を持つ本人
「自分の財産を、信頼できる家族に管理してもらいたい」と決める人。例:お父さま
🤝
② 受託者
管理を任される家族
委託者から信頼されて、財産の管理・運用・処分を担当する人。例:長男
🎁
③ 受益者
利益を受ける人
財産から生まれる収益(家賃など)を受け取る人。通常は最初は委託者本人。例:お父さま
📌 ポイント

「① 委託者」と「③ 受益者」を同じ人(本人)にしておけば、名義は受託者(長男)に移っても、家賃などの利益は本人が受け取り続けられます。つまり、生活への影響は最小限で、管理だけを家族に任せる形になります。

💬 「うちには大した財産がないから家族信託は関係ない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、自宅と預貯金だけでも、認知症になれば動かせなくなります。財産の規模に関わらず、検討する価値のある仕組みです。

認知症になると、財産はどうなる?

STEP 2認知症になると、財産はどうなる?

家族信託の必要性を理解するには、まず「認知症になったときに何が起きるか」を知っておく必要があります。これは多くの方が見落としがちな、相続準備の重要なポイントです。

⚠ 認知症になると「財産が凍結」される

判断能力が低下したと金融機関や役所に判断されると、本人名義の財産は事実上、動かせなくなります。これを実務上「財産の凍結」と呼んでいます。

具体的には、次のようなことができなくなります。

❌ 預貯金の引き出し
「ご本人でないと対応できません」と窓口で断られる
❌ 不動産の売却
介護施設の費用に充てたくても、自宅を売れない
❌ 定期預金の解約
家族でも本人の代わりに解約手続きができない
❌ 賃貸不動産の管理
入居者との契約更新・修繕の判断ができない
💬 「父が施設に入ることになったので、自宅を売って施設費用に充てたい」というご相談がありました。ところがお父さまは認知症が進んでいて、ご自身では契約の内容が理解できない状態。結果、自宅を売却することができず、ご家族が立て替えで月々のお金を工面することになりました。こうしたケースは決して珍しくありません。

成年後見制度との違い

STEP 3成年後見制度との違い

「認知症対策」と聞いてまず思い浮かべるのは、成年後見制度かもしれません。これは「判断能力が低下した方の代わりに、後見人が財産を管理する」公的な制度です。家族信託と似ているように見えますが、実は大きな違いがあります。

🏦 家族信託
いつ準備する?
判断能力があるうち(生前)に契約
誰が管理?
信頼できる家族(受託者)
裁判所の関与
なし
柔軟性
◎ 不動産の売却・運用も家族の判断で可能
費用
初期費用は数十万円〜、その後は基本的になし
⚖ 成年後見制度
いつ準備する?
判断能力が低下してからでも申立て可能
誰が管理?
家庭裁判所が選んだ後見人(親族または専門家)
裁判所の関与
あり(家庭裁判所の監督)
柔軟性
△ 本人の利益にならない処分は原則不可
費用
専門家が後見人の場合、月額2〜6万円程度が継続的に発生
📌 ここがいちばん大事なポイント

家族信託は、判断能力があるうちにしか契約できません

認知症になってしまった後では、もう設定できないのです。

一方、成年後見は認知症になった後でも申し立てができますが、家庭裁判所の監督下に入るため、柔軟な財産活用(不動産の売却・運用など)は難しくなります。

💬 「成年後見人がついたら、自宅をリフォームすることもできなくなった」というご相談を受けることがあります。後見人は本人の財産を「守る」ことが役割で、必要性が認められない支出は厳しく制限されるためです。家族の希望どおりに財産を活用したいなら、認知症になる前に家族信託を準備しておくことが重要です。

家族信託と遺言書、何が違う?

STEP 4家族信託と遺言書、何が違う?

ここからが本題です。家族信託と遺言書の違いをひとことで言うと、「いつ・何のために使うか」が異なる仕組みです。

🏦 家族信託
効力が発生するタイミング
契約成立時(生前)から
主な目的
生前の財産管理を家族に任せる
カバーする範囲
認知症対策・財産の活用・運用
柔軟性
◎ 契約内容を細かく設計できる
注意点
判断能力があるうちでないと契約できない
📄 遺言書
効力が発生するタイミング
本人が亡くなった後から
主な目的
死後の財産分配を法的に決める
カバーする範囲
相続対策・遺産分割の指定
柔軟性
○ 民法のルール内で自由に決められる
注意点
生前の財産管理には使えない
📌 違いをかんたんに整理すると
家族信託は「生きているうちの財産管理」のため
遺言書は「亡くなった後の財産分配」のため
「生前」と「死後」、カバーする時間軸がまったく違う

エンディングノートと遺言書の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

⚠ 両方を使う場合の大事なルール

家族信託と遺言書を両方使うとき、ひとつ重要なルールがあります。それは、「家族信託に組み込んだ財産は、遺言書では分配を指定できない」ということです。

家族信託で受託者に預けた財産は、もう本人の固有財産ではなくなるため、遺言書に書いても効力を持ちません。そのため、両方を併用する場合は、「信託に組み込まない財産(預貯金の一部など)を遺言書で指定する」という設計が必要です。設計時には司法書士・弁護士との相談が欠かせません。

どう使い分ける?組み合わせる?

STEP 5どう使い分ける?組み合わせる?

ご家庭の状況によって、家族信託と遺言書のどちらを優先すべきかは変わります。まずは、ご自身に当てはまるかをチェックしてみてください。

✅ 家族信託の検討をおすすめするケース
親(またはご自身)が60代以上で、健康なうちに対策しておきたい
賃貸不動産・事業用不動産を所有している
認知症の家族歴がある/将来が心配
判断能力がしっかりしているうちに、家族で準備しておきたい
配偶者亡き後の財産管理まで含めて考えたい

👉 ひとつでも当てはまる方は、家族信託の検討を始めてみる価値があります。

それでは、3つのパターンで具体的に考えてみましょう。

パターン①
認知症対策がいちばん心配な方

家族信託を優先して検討します。

親御さんがまだお元気で、将来認知症になったときの財産管理が不安、というケースです。賃貸不動産をお持ちの方、ご自宅の将来の活用に備えたい方も、家族信託が有効です。

パターン②
相続時の分配トラブルを防ぎたい方

遺言書を優先して準備します。

「自宅は妻に、預金は子どもたちで分けてほしい」など、亡くなった後の財産の渡し方を明確にしたい場合です。認知症の心配は少ないご家庭は、まず遺言書から始めるのが現実的です。

パターン③
どちらも備えておきたい方

家族信託と遺言書を組み合わせるのが理想です。

認知症対策(家族信託)と相続対策(遺言書)の両方を備えることで、生前から死後まで切れ目のない準備ができます。なお、家族信託に組み込めなかった財産(預貯金など)は、遺言書で分配先を指定しておくのが一般的です。

💬 「うちには家族信託まで必要かどうか、判断がつかなくて」というご相談はとても多いです。財産の内容や家族構成、将来の心配事を伺いながら、必要なら家族信託も、まずは遺言書からでも、ご家庭に合った形をご提案しています。

費用と手続きの現実

STEP 6費用と手続きの現実

家族信託を「やってみよう」と思ったとき、気になるのが費用と手続きです。実務の現実を整理しておきます。

📋 誰に頼む?

家族信託の設計は、専門性が高く、契約書の作り方ひとつで効果が大きく変わります。司法書士または弁護士に依頼するのが一般的です。

行政書士は家族信託の契約書作成そのものは業務範囲外のため、当事務所では提携の司法書士・弁護士をご紹介する形になります。

💰 費用の目安

信託する財産の規模によりますが、初期費用として30万〜100万円程度かかるのが一般的です。

・設計・契約書作成:30万〜80万円程度
・公正証書化の手数料:数万円
・不動産を信託する場合の登記費用:別途必要

成年後見と違って、その後の月額費用は基本的に発生しません。

🏦 信託口口座とは

家族信託をすると、信託財産を管理するための専用口座(信託口口座)を金融機関で開設します。これにより、受託者(家族)が信託財産を、自分自身の財産と区別して管理できる仕組みになります。対応している金融機関とそうでない金融機関があるため、事前確認が必要です。

💡 知っておきたい注意点
受託者(管理する家族)の負担が大きい:信託財産の管理・帳簿づけ・税務報告など、長期的な責任を負うことになります。引き受ける家族の理解と覚悟が必要です。
すべての金融機関が信託口口座に対応しているわけではない:取扱のある銀行・信用金庫が限られているため、事前確認が必要です。
親族間で「家族信託」の理解度に差が出やすい:受託者だけが知っている状態だと、他のご兄弟との間でトラブルになることも。事前に家族会議を開き、皆で納得して進めることが大切です。

▶ 認知症対策をもっと詳しく知りたい方へ
家族信託以外の認知症への備えも含めて、相続対策の観点から整理した記事をご用意しています。「うちは認知症の心配が大きい」という方は、あわせてご確認ください。

「家族信託」という言葉を最近よく耳にされる方も多いと思います。ただ、具体的に何ができて、何ができないのか、なかなかイメージしにくい仕組みでもあります。

私自身、ご相談を受けた時に「うちの場合は家族信託まで必要なのかどうか、判断がつかなくて」と迷われる方をたくさん見てきました。それは当然のことで、ご家庭によって最適な備え方は違うからです。

大事なのは、判断能力がしっかりしているうちに、選択肢を知っておくこと

認知症が進んでからでは、家族信託は組めません。「まだ大丈夫」と思っているうちが、いちばん動きやすいタイミングです。

「私の家には何が合っているか分からない」という段階でも構いません。

その一言から、一緒に考えさせてください。家族信託の設計や相続税の試算は提携先の専門家をご紹介します。

行政書士髙橋 大輔

当事務所のサポート内容

家族信託や遺言書の準備は、業務ごとに担当できる専門家が分かれています。当事務所では行政書士業務を担当しつつ、必要に応じて他の専門家をご紹介しています。

🏛 行政書士(当事務所)
遺言書の起案サポート
遺産分割協議書の作成
相続関係説明図の作成
戸籍収集代行
⚖ 司法書士・弁護士(ご紹介)
家族信託の設計・契約書作成
信託に伴う不動産登記
成年後見の申立てサポート
相続トラブルへの対応
📊 税理士(ご紹介)
相続税の試算・申告
贈与税の試算
税負担を抑える具体的な対策

三重県鈴鹿市の行政書士事務所

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まとめ

まとめ
重要
家族信託は認知症になる前にしか組めません
「まだ大丈夫」と思っているうちに準備するのが大事
家族
信託
生前の財産管理|認知症対策に有効
司法書士・弁護士が設計|判断能力があるうちに契約
遺言書
死後の財産分配|相続対策に有効
民法第960条以下|行政書士が起案サポート可能
併用
両方の心配がある場合は組み合わせが最善
家族信託(生前管理)+遺言書(死後分配)の役割分担
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を提供するものではありません。家族信託の設計や個別具体的なご相談は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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