はじめに

はじめに

「書いたから安心」と思っていた遺言書が、相続開始後に無効と争われるケースは実務上少なくありません。特に自筆証書遺言は公正証書遺言と比べて形式不備や解釈の争いが起きやすいという特徴があります。

この記事では、無効になる遺言の5つのパターンを、最高裁判例の考え方を踏まえつつ実務上の意味を平易に解説します。

パターン①:方式不備で無効になる

パターン①方式不備で無効になる(民法第968条)
⚠「令和○年○月吉日」→ 日付の特定ができず無効リスク

日付は年月日を具体的に記載する必要があります。「吉日」のように日が特定できない記載は無効主張の対象になります。

【判例の意味】最高裁令和3年1月18日判決は、自書日と押印日がずれた事案で直ちに無効とはしませんでした。ただしこれは「日付が書いてある」ことが前提の話。そもそも日付自体が特定できない場合は別問題です。

⚠ 押印がない・指印の場合

押印は必須要件です。最高裁平成元年2月16日判決は指印(指で押した印)でも有効としていますが、後の争いを避けるためには通常の印鑑を使うことが安全です。

⚠「財産目録はパソコンで作れる」の誤解に注意

2019年改正で財産目録(財産の一覧表)のみパソコン作成が認められました(民法第968条第2項)。しかし遺言本文(誰に何を渡すかの本体部分)は全文自書が必須です。本文をワープロで書いた場合は無効になります。

パターン②:内容が曖昧で争いになる

パターン②内容が曖昧で争いになる
NG例:「自宅を長男に相続させる」→ 複数の不動産がある場合にどれを指すか争いになる
OK例:登記事項証明書通りに所在・地番・家屋番号まで特定して記載
NG例:「家族仲良く公平に分けること」「面倒を見てくれた者に多めに渡すこと」
→ 気持ちは伝わるが誰に何を渡すかが確定せず遺産分割協議が必要になる
⚠「相続させる」と「遺贈する」の誤用も問題

相続人に渡すのに「遺贈する」と書くと、登録免許税が固定資産税評価額の0.4%→2%に増加し、登記手続きも相続人全員との共同申請が必要になります。反対に相続人以外(内縁パートナー等)に「相続させる」と書いても法的効力が生じません。

パターン③:訂正・加除の方法が不適切

パターン③訂正・加除の方法が不適切

自筆証書遺言の訂正方法には法律の要件があります(民法第968条第3項)。二重線を引いて横に書き直しただけでは無効になる可能性があります。

⚠「明らかな誤記なら救われる」を頼りにしない

最高裁昭和47年3月17日判決は、証書から一見して明らかな誤記の訂正は方式に違反しても効力に影響しない場合があるとしています。ただしこれは「一見して明らか」な場合だけです。

→ 実務上の結論:訂正が必要なら作り直すくらいの慎重さが安全

パターン④:遺言が撤回扱いになる

パターン④遺言が撤回扱いになる
⚠ 文面に斜線を引くだけで撤回扱いになる

最高裁平成27年11月20日判決は、遺言書の文面全体に赤色ボールペンで斜線を引いた行為について、元の文字が読めても「遺言書を不要のものとした」として民法第1024条前段の「故意に遺言書を破棄したとき」にあたり、遺言を撤回したとみなしました。

→「まだ読めるから有効」とは限りません。後から修正しようとした行為が撤回と認定されることがあります。

パターン⑤:意思能力・外部からの関与が争われる

パターン⑤意思能力・外部からの関与が争われる

形式が整っていても、作成時に遺言者に意思能力(物事の意味を理解して判断する能力)がなかった・強い働きかけがあったとして争われることがあります。

重度の認知症の状態で書いた遺言
入院中で判断能力が疑われる場面での遺言
特定の相続人が作成過程を主導しているケース
📋 公正証書遺言の方が無効主張への耐性が高い

公正証書遺言の場合、公証人(法務大臣に任命された法律の専門職)が本人の意思・判断能力を確認したという記録が残ります。完全に争いがなくなるわけではありませんが、自筆証書遺言よりも無効主張を退けやすい状況が生まれます。

無効にならないための作成チェックリスト

無効にならないための作成チェックリスト
📋 作成前・作成時・作成後
【作成前】
不動産は登記事項証明書で地番・家屋番号を確認
相続人の範囲を戸籍で確認
【作成時】
日付は「令和○年○月○日」と具体的に記載
財産は特定できる表現で記載(「自宅」だけはNG)
相続人には「相続させる」・相続人以外には「遺贈する」
訂正が必要なら作り直す(安易な修正は危険)
【作成後】
法務局保管制度(3,900円)を活用する
保管場所を信頼できる家族に伝えておく

まとめ

まとめ
方式
不備
「吉日」日付・押印なし・本文代筆は無効(民法第968条)
財産目録のみパソコン可。本文は全文自書が必須
撤回
注意
文面に斜線を引くだけで撤回扱い(最高裁平成27年11月20日)
「まだ読める」でも民法第1024条の撤回と判断される
確実性
重視
不安があれば公正証書遺言。意思能力の記録が残る
専門家の関与で無効主張への耐性が格段に高まる

📋 作成前にご相談を

【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を提供するものではありません。遺言書の作成は専門家(行政書士・司法書士等)にご相談いただくことを推奨します。

《 関連記事 》