はじめに
はじめに
「費用がかからないし、自分で書けばいい」と思っている方は多いと思います。
確かに自筆証書遺言は手軽です。紙とペンさえあれば、今日からでも書けます。
ただ、手軽さの裏にはリスクがあります。形式を一つ間違えれば無効になる。
書き方が曖昧なら家族が揉める。発見されないまま終わることもある。亡くなってからそれがわかっても、もうどうにもなりません。
この記事では、自筆証書遺言のリスクを正直にお伝えします。それでも自分で書くか、専門家に頼むかを、知った上で選んでほしいと思っています。
📋 この記事でわかること
・書き方のリスク(形式不備・財産の特定・訂正・撤回)
・運用のリスク(発見されない・意思能力を争われる)
・内容のリスク(遺言に書いても効力がないことがある)
・それでも自筆を選ぶ場合の対策と、公正証書遺言をすすめる理由
書き方のリスク
リスク① 形式不備で無効になる
リスク①形式不備で無効になる
「たったこれだけで?」と思うような理由で無効になるのが一番多いパターンです。よくある形式不備をまとめました。
×
「令和○年○月吉日」と書いた
縁起を担いで吉日と書くケースが多いですが、日が特定できないため無効になります。「令和○年○月○日」と具体的に書く必要があります。
×
押印を忘れた
署名だけでは無効です。認印でも有効ですが、実印を使う方が後の争いを防ぎやすいです。
×
本文の一部をパソコンで書いた
財産の一覧表のみパソコン作成が認められていますが、遺言の本文は全文手書きが必要です。
×
夫婦で1枚の紙に一緒に書いた
「2人分をまとめて書けば手間が省ける」と思いがちですが、複数人が1通の遺言書を作成する共同遺言は認められていません。夫婦それぞれが別々に作成する必要があります。
×
スマホで動画・録音に残した
「ビデオで遺言を残した」という方が実際にいますが、動画・音声データには法的効力がありません。遺言書は必ず書面で作成する必要があります。
×
鉛筆・消えるボールペンで書いた
後から書き換えられる筆記具は無効とされるリスクがあります。必ず消えないボールペンや万年筆で書いてください。
リスク② 財産の書き方が曖昧で争いになる
リスク②財産の書き方が曖昧で争いになる
形式が正しくても、財産の書き方が曖昧だと「どの財産のことかわからない」として手続きが進まなくなったり、家族が揉めたりすることがあります。
⚠ こんな書き方に注意:「自宅を長男に相続させる」→ 不動産が複数ある場合にどれを指すかわからない
⚠ こんな書き方に注意:「できるだけ公平に分けること」→ 誰が何をもらうかが決まらず話し合いが必要になる
⚠ こんな書き方に注意:「自宅は長男に、預貯金は長女に」と書いて終わり→ 書き漏れた財産は遺言書がない状態と同じになり、家族全員で話し合いが必要になる
📋 推奨の書き方:不動産は権利証明書の記載通りに・預貯金は銀行名・支店名・口座番号まで記載・最後に「前各条以外の一切の財産を○○に相続させる」と残余財産の受取人も指定する
⚠ 「相続させる」と「遺贈する」の誤用も問題
法律上の家族(相続人)に渡すときは「相続させる」、籍を入れていないパートナーや知人など家族以外に渡すときは「遺贈する」を使います。誤った用語を使うと登記の費用が増えたり手続きが複雑になることがあります。
リスク③ 訂正の方法を間違えると無効になる
リスク③訂正の方法を間違えると無効になる
書き間違えたとき、修正テープや二重線を引くだけでは無効になる可能性があります。
正しい訂正方法があり、その手順を踏まないといけません。ただ、その方法自体がわかりにくく、間違えやすいです。
💡 実務上の結論:迷ったら書き直す
訂正が必要な場合は、正しい手順を踏もうとするより最初から書き直す方が確実です。そのたびに全文を書き直す手間がかかるのも、自筆証書遺言のデメリットの一つです。
リスク④ 知らずに撤回扱いになる
リスク④知らずに撤回扱いになる
「書き直したい」と思って遺言書に斜線を引いただけで、内容が読める状態でも法的には撤回とみなされることがあります。「まだ読めるから有効なはず」は通じません。
⚠ 内容を変えたいときは新しく書き直す
後から修正しようとした行為が、意図せず遺言全体を無効にしてしまうことがあります。内容を変えたい場合は斜線を引かず、新しい遺言書を作成してください。
運用のリスク
リスク⑤ 発見されない・隠される
リスク⑤発見されない・隠される
自宅に保管していた遺言書が、遺品整理の中で捨てられてしまったり、内容を気に入らない家族に隠されてしまうことがあります。せっかく書いても見つからなければ意味がありません。
💡 法務局の保管制度で防げます
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局に預けられる制度が始まりました(費用3,900円)。紛失・偽造・隠蔽のリスクがなくなり、相続発生後の家庭裁判所での確認手続きも不要になります。
保管申請のときに通知を受け取る人(3名まで)を指定しておくことをおすすめします。
死亡届が出たタイミングで法務局から指定した人に通知が届くため、遺言書の存在が確実に伝わります。
2026.04.14
はじめに
はじめに
自筆証書遺言を自宅で保管すると、紛失・改ざん・発見されないというリスクがあります。2020年7月から施行された「遺言書保管制度」は、これらのリスクをまとめて解消できる制度です。
この記事では、制度の...
リスク⑥ 意思能力・外部からの関与が争われる
リスク⑥意思能力・外部からの関与が争われる
形式が整っていても、「書かされたのではないか」「認知症が進んだ状態で書いたのではないか」と争われることがあります。自筆証書遺言には、作成時の状況を証明してくれる第三者がいません。
①
認知症が進んだ状態で書いた
作成時の判断能力が疑われると、後から他の家族に無効を主張される可能性があります。
②
入院中・体調が悪い時期に書いた
判断能力が疑われやすい状況での作成は、争いのリスクが高まります。
③
特定の家族が作成を主導している
「誰かに書かされた」という疑いがかかると、内容の有効性を争われることがあります。
⚠ 「元気なうちに書く」だけでは不十分なことも
筆跡を残す・録画するなどの工夫はできますが、第三者による確認記録が残る公正証書遺言と比べると、争われたときの証拠力に差があります。
内容のリスク
リスク⑦ 遺言に書いても効力がない内容がある
リスク⑦遺言に書いても効力がない内容がある
遺言書には書けることと書けないことがあります。「遺言書に書いたから大丈夫」と思っていても、法的効力がない内容が含まれていると、その部分は実行されません。
×
「息子の嫁によくしてやってほしい」
相続人でない人への「お願い」は法的効力がありません。気持ちを伝える付言(手紙的な文章)としては書けますが、実行を強制することはできません。
×
「葬儀は家族だけで行ってほしい」
葬儀の方法・場所・規模などの希望は法的効力がありません。家族への希望として付言に書くことはできます。
×
「長男とは縁を切る」「○○と離婚してほしい」
人間関係・婚姻関係など身分に関わることは遺言では決められません。
💡 付言として気持ちを伝えることはできます
法的効力はなくても、遺言書の末尾に家族へのメッセージ(付言)として書き添えることができます。「ありがとう」「仲良くしてほしい」という気持ちを残すことは、残された家族の心の支えになることがあります。
準備不足のリスク
リスク⑧ 遺言を実行してくれる人を決めていない
リスク⑧遺言を実行してくれる人を決めていない
遺言書を書いても、誰かが実際に手続きを動かさなければ意味がありません。遺言を実行してくれる人を指定していない場合、残された家族全員の協力が必要になり手続きが複雑になることがあります。
・家族の1人・行政書士など専門家のいずれでも指定できます
・家族間で揉める可能性がある場合は、第三者(専門家)への指定が有効です
・指定した人が先に亡くなることも想定して、代わりの人も決めておきましょう
・書き方の例:「遺言を実行する人として○○(昭和○○年○月○日生)を指定する。○○が先に死亡した場合は△△を指定する」
2026.04.11
はじめに
はじめに
自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば費用をかけずに作れる遺言書です。「自分で書けそう」と思っている方も多いと思います。
ただ実際には、形式が整っていなかったという理由で無効になるケース...
それでも自筆証書遺言を選ぶなら
それでも自筆証書遺言を選ぶなら
財産がシンプルで相続人が少ない場合など、自筆証書遺言が向いているケースもあります。その場合は以下の点を必ず守ってください。
📋 それでも「完璧な遺言書」はない
どちらの遺言書であっても、最終的に有効・無効を判断するのは裁判所です。だからこそ内容を整理する段階から専門家と一緒に作ることに意味があります。自筆を選ぶなら、少なくとも以下の対策は必ずやってください。
向いているケース
・財産が預貯金のみなど、シンプル
・引き継ぐ人が1〜2人
・内容を定期的に書き直したい
必ずやること
・法務局の保管制度を使う(3,900円)・保管申請時に通知を受け取る人を指定する
・作成前に専門家に内容を確認してもらう
・書き間違えたら書き直す
・受け取る人が先に亡くなった場合の受取人も決めておく
・遺言を実行してくれる人が先に亡くなった場合の代わりの人も指定しておく
2026.04.11
はじめに
はじめに
「うちは特別な事情もないし、遺言書なんて必要ないかな」と思っている方も多いのではないでしょうか。
確かに、誰もが必ずしも遺言書を作らなければならないわけではありません。
でも、「作...
公正証書遺言をすすめる理由
公正証書遺言をすすめる理由
ここまで読んできたリスクの多くは、公正証書遺言を選べば回避できます。
✓
形式不備で無効になるリスクがほぼない
公証人が作成するため、要件の不備が起きません。
✓
紛失・偽造・隠蔽のリスクがない
原本は公証役場に保管されるため、なくなることがありません。
✓
意思能力の記録が残る
公証人が本人の意思と判断能力を確認した記録が残るため、後から争われにくくなります。
✓
相続発生後の手続きがスムーズ
家庭裁判所での確認手続きが不要で、すぐに手続きに進めます。
費用は財産の総額によって変わりますが、財産5,000万円で総額7〜10万円程度です。「確実性を買うコスト」と考えると、決して高くないはずです。
2026.04.11
はじめに
はじめに
公正証書遺言は、公証人(法務大臣に任命された法律の専門職)が作成するため形式不備による無効リスクがほぼなく、実務でも最も利用されている遺言の形式です。
この記事では、公正証書遺言が選...
当事務所でできること
当事務所でできること
ここまで読んで、こんな気持ちになっていませんか?
・自分で書こうとしていたが、リスクが多くて不安になってきた
・公正証書遺言の手続きや文案作成を一緒にしてほしい
・亡くなった後に家族が困る事態だけは避けたい
そう感じたら、公正証書遺言をおすすめします。当事務所では、内容の整理から公証役場との手続きまで一括でサポートします。
🏛 行政書士(当事務所)
遺言書の内容案の作成サポート
財産目録の作成
公証役場との調整・証人立会い
必要書類の収集代行
⚖ 司法書士(ご紹介)
不動産の相続登記
(2024年4月より義務化・3年以内)
まとめ
まとめ
書き方
のリスク
形式不備・財産の特定・訂正ミス・撤回。1つでも間違えると全体が無効になる
運用の
リスク
発見されない・隠される・意思能力を争われる。正しく書いても「伝わらない」リスクがある
内容の
リスク
書いても効力がない内容がある。「遺言書に書けばすべて実現する」は誤解
公正
証書
不動産あり・複雑な家族関係・確実に残したい場合は公正証書遺言をすすめる
「手軽だから」という理由だけで選ばないでください。残された家族が困らないための遺言書を、正しい形で残してほしいと思っています。
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を提供するものではありません。個別の事情により手続きや結果が異なる場合がありますので、具体的なご相談は専門家(行政書士・司法書士等)にお問い合わせください。